コラム

訪問看護の組織づくりでMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が必要な理由

訪問看護の組織づくりでMVVが必要な理由

訪問看護ステーションの運営では、日々さまざまな判断が求められます。利用者・家族・多職種との調整、スタッフ教育、緊急対応――。その場その場で最善の選択をし続けることは簡単ではありません。ステーションの規模が大きくなるほど、判断基準の違いによる迷いや負担が管理者に集中しやすく、「組織としての軸」を求める声が増えてきます。こうした背景から近年注目されているのが、組織の理念や価値観を言語化した「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)」です。訪問看護において、なぜMVVが重要なのでしょうか? その理由とメリットを、現場の課題と照らし合わせながら解説します。

訪問看護の組織づくりでMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)が必要な理由

訪問看護ステーションの運営において、「MVV(Mission・Vision・Value)」を掲げるケースが増えてきました。日本語にすると「使命」「目指す未来」「価値観」ですが、耳なじみのない方もいるかもしれません。

知っていたとしても、
「理念を作った方がいいとは聞くけれど、忙しくてそこまで手が回らない」
「本当に必要なのだろうか?」
と感じている管理者の方も多いのではないでしょうか?

確かに、理念がなくても、訪問看護の現場は回るでしょう。
それでも多くのステーションが、ある段階で組織運営の壁にぶつかります。

そこで今回は、訪問看護ステーションにおいてMVVを明確にするメリット、明確にしないデメリットをお伝えしたいと思います。

訪問看護では理念がなくても機能する一方で…

訪問看護は、専門職の集まりです。看護師はそれぞれ高い倫理観を持ち、「利用者さんのために」という思いを共有しています。
そのため、組織として明確な理念がなくても、現場はある程度機能します。

「利用者に寄り添うケアを行い、チームで協力しながら業務を進める」ことは、多くの看護職が当たり前のように行っているでしょう。

しかし、ここに落とし穴があります。それは、「良いと思っていること」の基準が人によって違うということです。
例えば、

  • 利用者からの急な訪問依頼にどこまで応えるのか
  • 家族からの相談にどう対応するのか
  • 時間外対応をどう判断するのか

こうした場面で、スタッフごとに判断が分かれることがあります。

小規模な組織であれば、管理者の考え方や暗黙のルールで回ることもあります。しかし、組織が少しずつ大きくなってくると、この違いが徐々に表面化してきます。

組織が大きくなると生じる価値観のズレ

訪問看護ステーションの運営では、スタッフが増えるほど組織マネジメントの難易度が上がります。

人数が少ないうちは、

  • 管理者の価値観
  • 長く働くスタッフの経験
  • 暗黙のルール

などで組織がまとまることもあります。

しかし、スタッフが増え、新しいメンバーが加わると、価値観のズレが生まれやすくなります。

例えば、

  • ケアの優先順位の考え方
  • 利用者や関係者への対応のしかた
  • チーム内の役割意識

といった部分で小さな違いが積み重なると、チームとしての一体感が弱くなります。

さらに、判断のたびに管理者に確認するような組織になると、管理者の負担も大きくなります。
「このケースはどう対応したらいいですか?」
「この判断でよかったでしょうか?」
こうした相談が増えれば増えるほど、管理者は現場判断を一手に引き受けることになります。

訪問看護管理者の役割は方向性を示すこと

訪問看護管理者の役割

訪問看護管理者の仕事は多岐にわたります。
人材管理・クレーム対応・地域連携・経営管理など、日々の業務に追われることも少なくありません。

その中でも特に重要な役割が、組織の方向性を示すことです。

訪問看護は現場判断の連続です。
利用者や家族の状況は一人ひとり異なり、マニュアルだけでは対応できない場面も多くあるでしょう。

だからこそ、スタッフが迷ったときに立ち返ることができる「軸」が必要になります。
その軸を言語化したものが、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)です。

MVVは組織の判断基準になる

MVVを改めて定義すると


●Mission(使命):私たちは何のために存在するのか
●Vision(目指す未来):どんな組織を目指すのか
●Value(価値観):どんな行動を大切にするのか

を言語化したものです。これらが明確になると、現場の判断基準が揃います。

MVVを明らかにすれば、スタッフが迷ったときに、「私たちの価値観から考えるとどうだろう?」と考えることも可能です。

管理者がその場にいなくても、組織としての判断ができるようになることから、管理者の負担を減らすという意味でも非常に大きな効果があります。

MVVがチームを強くする

チームの一体感

MVVのもう一つの役割は、チームの一体感を生み出すことです。

訪問看護ステーションは、背景が異なる医療職が集まってチームを形成しています。
一人ひとりの経験や価値観が違うからこそ、組織として大切にするものを共有することが重要です。

MVVがある組織では、

  • 同じ方向を向いて仕事ができる
  • 判断基準が共有される
  • チームとしての一体感が生まれる

といったポジティブな変化が起き、チームを強くするのです。

また、MVVを組織で共有することで、採用の場面でも効果が期待できます。理念に共感して入職するスタッフは、組織に馴染みやすく、長く働く傾向があります。

まとめ:組織のコンパス「MVV」を明確にしよう!

MVVを明確にするのは、立派な言葉を掲げるためではありません。
大切なのは、組織のコンパスとして機能させることです。

訪問看護の現場では、日々さまざまな判断が求められます。
そのときに、組織全体で大切にする価値観があるかどうかで、チームワークは大きく変わります。

もし今あなたが、組織運営に迷いを感じているのであれば、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか?

「私たちは、何のためにこのステーションを運営しているのか?」
「どんな組織を目指し、どんな行動を大切にするのか?」

これらを明確にし、共有することが、強い組織づくりの第一歩になるかもしれません。

執筆・編集者:米沢まさこ(看護師ライター)

監修:小瀬文彰(看護師・保健師・経営学修士)

株式会社UPDATE代表取締役
小瀬文彰さん
2013年慶應義塾大学看護医療学部卒。
ケアプロ訪問看護ステーション東京にて、新卒訪問看護師としてキャリアをスタート。訪問看護の現場・マネジメント経験の後、薬局・訪問看護を運営するスタートアップ企業にて最高執行責任者として40拠点・年商65億規模の経営に携わり、上場企業へのグループインを実現。
現在は株式会社UPDATEの代表として、訪問看護のマネジメントコーチ(経営・組織づくり支援)や組織マネジメント講座を通し、「想いある医療者に、マネジメントの力を」届ける事業を展開中。
その他、業界団体の研修会登壇や調査研究支援(シンクタンク事業)も実施中。
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